青果担当が教える梅の選び方と漬け方

八百屋の話


梅が出る季節になった。

青果売り場に梅が並びはじめると、何年売り場に立っていても、少し気持ちが変わる。野菜と違って、梅は「待っている人がいる」のが伝わってくる。かごに手を伸ばすお客さんの顔が、いつもより少し真剣だ。

去年の梅酒がまだ残っていても買っていく人がいる。毎年漬けるのが習慣になっているんだろう。それはもう、料理というより、季節の儀式に近い。

ただ、梅が並んでいると必ず聞かれることがある。「どれを買えばいいんですか」。棚に南高梅と白加賀と古城が並んでいれば、たしかに迷う。見た目はどれも似ているし、値段も品種によってまちまちだ。

今回は、売り場に長く立ち続けた青果担当として、梅の品種の違いと何を作るかによる選び方、そして漬け方の基本を整理しておきたい。

梅は「何を作るか」で選ぶ品種が変わる

まず前提として、梅には300種類以上の品種があると言われているが、スーパーの青果売り場に並ぶのはそのうちのほんの数種類だ。よく見かけるのは南高梅、白加賀、古城(こじろ)、小梅あたりになる。

大事なのは、品種ごとに「得意な仕事」が違うということだ。

南高梅(なんこうめ)

梅の世界でいえば、南高梅はほぼ「王様」の位置にいる。和歌山県が主な産地で、全国の梅の作付面積のうち半分以上を南高が占めている。

特徴は皮が薄くて果肉が柔らかく、種が小さい割に食べ応えがあること。完熟になるにつれてほんのり赤みを帯び、甘い香りを放つ。

梅干しに使うなら南高、というのは間違いではない。ただ、柔らかい果肉は梅酒に漬けると崩れやすいという面もある。梅干し、梅シロップ、梅ジャムなど、果肉の美味しさを活かした加工に向いている。

白加賀(しろかが)

江戸時代から関東で栽培されてきた品種で、現在も群馬県を中心に東日本で多く流通している。南高に比べてやや地味な印象を持たれがちだが、果肉が緻密で肉厚、繊維が少ないという点では、梅干しや梅シロップに使ったときの「底力」がある。

梅シロップに白加賀を使うと、南高が「華やか」なシロップになるのに対して、白加賀は「気品のある」仕上がりになる、という表現があって、個人的にはしっくりくる。完熟前に落果しやすい性質があるため、青梅のうちに梅酒やシロップへ、追熟させて梅干しへ、と使い分けるのが基本だ。

古城(こじろ)

南高梅と並んで和歌山で栽培されている青梅で、「青いダイヤ」と呼ばれることもある。南高より果実が硬く、梅酒や梅ジュースに最適とされている品種だ。硬い果実は漬けても崩れにくく、透明感のある美しい琥珀色の梅酒に仕上がる。

生産量が年々減っていて、希少性が高い。棚に出ていたらむしろ「今年は見かけた」と思うくらいの品種だ。

小梅

その名の通り小粒の梅で、5月下旬頃から最初に店頭に出てくる。カリカリ梅の原料として有名で、竜峡小梅(長野)や甲州小梅(山梨)などの品種がある。歯ごたえを楽しむカリカリ漬けに使いたい場合は、緑色が鮮やかで実が硬く張りのある小梅を選ぼう。

青梅と完熟梅、何が違うのか

梅を買うときにもう一つ知っておきたいのが、熟し方による用途の違いだ。

店頭に出る梅は大きく分けると「青梅」と「完熟梅」の2種類になる。同じ品種でも、収穫のタイミングで使い道が変わる。

青梅は実が緑色で硬く、爽やかな酸味と香りが強い。梅酒や梅シロップに向いている。カリカリ梅にするならこの段階の梅を使う。

完熟梅は黄色くなってきた状態で、甘い芳醇な香りを放つ。果肉が柔らかく、梅干しに最適だ。

ひとつ覚えておいてほしいのは、青梅を買ってきても、常温で数日おいておけば追熟が進んで黄色みを帯びてくるという点だ。「青梅を買ったけど梅干しを作りたい」という場合は、風通しの良い場所で数日追熟させてから漬けるといい。逆に、梅酒用に買った青梅はできるだけ早く加工した方がいい。時間が経つほど青梅の爽やかな香りが飛んでいく。

梅の選び方、売り場で見るべきポイント

買うときに確認してほしいのは、表面に虫食いや黒い斑点がないかどうかだ。そういう傷があると、そこから苦味が出たり、漬け込んだ液が濁る原因になる。

梅酒やシロップなら粒の大きさが揃っているものを選ぶと、梅から出るエキスが均等に出て仕上がりが安定する。梅干し用の完熟梅なら、触ったときに少し弾力があって、よい香りがするものを選ぼう。

ここで少し、売り場の裏側の話をしたい。

梅の季節になると、仕入れた箱の中に必ず何粒か、傷がついていたり過熟が進みすぎたりして売り物にならないものが混じっている。そういう梅は見切りの対象になる。ある朝、いつものように朝の商品チェックをしていたら、状態の良い梅が何粒か見切りになりかけていた。完璧ではないが、傷は浅い。捨てるには惜しい梅だった。

その日の帰り、自分で買って帰った。

帰宅してヘタを取りながら、これで梅シロップを仕込もうと思った。傷のある部分だけ丁寧に取り除いて、消毒した瓶に氷砂糖と交互に入れた。完璧な梅じゃなくても、梅仕事にはなる。むしろ、自分で選んで自分で仕込んだという感覚が、いつもより少し強かった。

梅シロップの作り方——初めての梅仕事にちょうどいい

梅仕事の中でも、最初に挑戦するなら梅シロップが一番取り掛かりやすい。アルコールがないから子どもでも飲めるし、失敗した場合でも梅酒ほど痛手が大きくない。

用意するもの:青梅1kg、氷砂糖1kg、清潔な保存瓶(4L程度)

手順としては、梅をよく洗ってから水気を丁寧に拭き取り、竹串でヘタを一粒ずつ取り除く。ここは地味だが大事な作業で、ヘタが残っていると仕上がりに雑味が出る。消毒した瓶に梅と氷砂糖を交互に入れて冷暗所に置き、毎日1〜2回瓶を傾けて全体に蜜がまわるようにする。7〜10日ほどでシロップが上がってくる。梅がシワシワになったら取り出し、液を80度前後で加熱殺菌して完成だ。

氷砂糖を選ぶ理由は、純度が高くてゆっくり溶けるため、梅のエキスが出てくる速度とバランスが取れるからだ。砂糖が早く溶けすぎず、かといって遅すぎない。この「溶けるペース」が発酵を防ぐ鍵になる。

梅酒の作り方——失敗が少ないのが梅仕事入門に向く理由

梅酒は度数の高いアルコールで漬けるため、カビや発酵のリスクが梅シロップより低い。その意味で、梅仕事の入口としてむしろ梅酒の方が安全という考え方もある。

用意するもの:青梅1kg、氷砂糖500〜700g、ホワイトリカー(35度)1.8L、清潔な保存瓶(4L程度)

梅はよく洗って水気を完全に拭き取り、竹串でヘタを取る。水気が残っているとカビの原因になるため、ここは丁寧にやる。瓶に梅と氷砂糖を交互に入れ、ホワイトリカーを注いで蓋をする。冷暗所に置いて半年から1年、待つだけだ。

ホワイトリカーは無味無臭に近いので、梅の風味がそのまま生きる。ブランデーや泡盛で漬けるとそれぞれの酒の個性が加わり、また違う味わいになる。時間をかけて熟成させるほど、角が取れてまろやかになっていく。

梅仕事の失敗で一番多いのは「水気」

梅仕事で失敗する原因の多くは、水気の処理が甘かったことに行き着く。洗った後にしっかり乾燥させること、瓶も消毒してから完全に乾かすこと。この二点は梅酒でも梅シロップでも梅干しでも共通する。

売り場で梅を袋に入れて売るとき、温度差で袋の中に水滴がつくことがある。買ってきたらすぐに袋から出して、ザルに広げて常温で乾かすか、一粒ずつキッチンペーパーで丁寧に拭いてから作業に入ることを勧めたい。

梅シロップは、山から帰ってきた夜に飲むものだ

前の年に仕込んだ梅シロップの出番は、たいてい夏の登山の帰りだった。

九州の山はきつい。特に夏場の朝駆けは、暗いうちから登りはじめて、山頂で夜明けを待って、日が高くなる前に下山する。下りてくる頃にはもう汗が止まらなくて、体の中の水分が全部出ていったような感覚になる。

帰宅して、冷蔵庫から梅シロップを出して、炭酸水で割る。それだけだ。

大袈裟に言うつもりはないが、あの一杯は他のものと違う。スポーツドリンクでも水でもビールでもなく、梅シロップの炭酸割りだけが持っている何かがある。疲れた体に梅の酸味が入ってくる感覚は、ただ渇きを癒すというより、季節の中にいる自分を確認するような時間だった。

仕込んだのは前の年の6月で、飲むのは翌年の夏。一年越しで自分の台所が山の帰りを迎えてくれる、とでも言えばいいのか。梅仕事には、そういう時間の厚みがある。


梅仕事という言葉が好きだ。「仕事」という言葉が含まれているのがいい。

料理でも作業でもなく、仕事。毎年同じ季節に同じことをして、少しずつうまくなっていく。それは職人の仕事と同じ構造を持っている。

売り場で梅を並べながら、今年もこれを買って帰って漬け込む人がいるのだと思う。その人の台所に何年も続いている梅仕事があるとしたら、それはそれで豊かな時間の積み重ね方だと思う。

今年初めて挑戦するなら、梅シロップから始めてみてほしい。1kgの梅と1kgの氷砂糖。それだけで、夏が少し変わる。

あなたは毎年梅を漬けていますか?それとも今年が初めてですか?ぜひコメントで聞かせてください。

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