らっきょうが届く朝は、少し独特だ。
箱を開けた瞬間に、あの匂いが来る。土の匂いと、らっきょう独特の硫黄に似た刺激。好きな人は「ああ、この季節が来た」と思うだろうし、苦手な人は顔をしかめる。どちらの反応も、毎年見ている。
らっきょうは梅と並んで、「漬け仕事の季節」を知らせる野菜だ。5月下旬から6月にかけて店頭に並びはじめ、旬は驚くほど短い。気がついたら終わっている。「今年も漬けそびれた」という声を、毎年何人かのお客さんから聞く。
今回は、売り場に長く立ち続けた青果担当として、らっきょうの品種と選び方、漬け方の基本を整理しておきたい。
らっきょうの種類と産地
国内で流通するらっきょうは、産地によって品種や特徴が少し異なる。主な産地は鹿児島、宮崎、鳥取、福井あたりだ。
鳥取砂丘らっきょうは、砂地で育てられたことで皮が薄く、粒が小ぶりで歯ごたえが強い。甘酢漬けにしたときのパリパリ感が際立つため、漬け物として評価が高い。「砂丘らっきょう」というブランドで流通していることが多い。
鹿児島・宮崎産は粒がやや大きめで肉厚。九州産は流通量が多く、スーパーの青果売り場でも比較的手に入りやすい。甘酢漬けはもちろん、塩漬けにも向いている。
福井産の三里浜らっきょうは、砂丘地帯で育てられた粒の小さいらっきょう。繊維が細かく、漬けたときの食感が上品で、料亭などでも使われる。

スーパーに並ぶらっきょうはたいてい「土付き」か「洗い」のどちらかだ。土付きは鮮度が長持ちして風味が強い。洗いは下処理が楽だが、その分傷みも早い。漬け仕事をするなら土付きを選ぶ方が、仕上がりがいい。
売り場の裏側——芽が伸びるのが早い
らっきょうの話をするなら、正直に言っておかなければならないことがある。
らっきょうは2〜3日で芽が伸びる。驚くほど早い。入荷した翌日には、もう先端が伸びはじめている。芽が伸びたらっきょうは見た目が悪くなって売り物として出しにくくなるので、定期的に作業場に引いてきてハサミでチョキチョキと切り落として、また売り場に戻す。
これが地味に面倒くさい。
梅のように「傷んだ粒を選り分ける」作業とはまた違う手間で、ひたすら同じ動作を繰り返す。作業場でらっきょうと向き合いながら、「お前ら本当に元気だな」と思うことが何度かあった。
芽が伸びたらっきょうを買ってきてしまったお客さんは、漬ける前に芽と根の両方を切り落としてほしい。食べられないわけではないが、芽の部分は苦味が出やすい。
らっきょうの選び方——売り場で何を見るか
粒が丸みを帯びていて、皮がしっかり張っているものを選ぶ。先端が細くとがっているものより、ふっくらと太ったものの方が肉質がよく、漬けたときの歯ごたえが出る。
皮の色は白っぽいものが新鮮で、茶色くくすんでいるものは鮮度が落ちている。土付きを買う場合、土が乾いているものは保存状態がよい。湿った土がついているものは傷みが早いので注意が必要だ。
粒の大きさは揃っているものを選ぶと、漬け込んだときにエキスが均等に入って仕上がりが安定する。
お客さんとのやりとりから生まれた「らっきょう漬け入門トーク」
売り場に立っていると、らっきょうの季節になると必ず聞かれることがある。
「らっきょうって、洗ってから漬けるんですか?」
最初の数年は毎回丁寧に説明していたが、いつの間にか自分の中に「らっきょう漬け入門トーク」ができあがっていた。
答えはこうだ。土付きを買った場合は、まず軽く水洗いして土を落とし、根と芽の両端をハサミで切り落とす。外側の薄皮を1〜2枚むいて、また洗う。水気をしっかり拭き取ってから漬け込む。洗いらっきょうを買った場合は、両端を切って水気を拭けばすぐ漬けられる。
「漬けるのにどのくらいかかりますか?」という次の質問もセットで来ることが多い。甘酢漬けなら早くて2週間、塩漬けは1週間ほどで食べられる。ただし1ヶ月以上漬けた方が味が落ち着いて美味しい、と伝えると「じゃあ今すぐ買わないと間に合わない」と納得してかごに入れてくれることが多かった。
この「今すぐ漬けないと間に合わない」という事実は、販売トークでも何でもなく本当のことなので、良心的に背中を押せる。

甘酢漬けの作り方——らっきょう漬けの定番
らっきょうの甘酢漬けは、漬け仕事の中でも比較的失敗が少ない。梅仕事よりも手順がシンプルで、発酵のリスクも低い。
材料(らっきょう1kgあたり):らっきょう1kg、酢360ml、砂糖200g、塩大さじ1、赤唐辛子2本、保存瓶(2L程度)
下処理として、らっきょうの両端をハサミで切り落とし、外皮を1〜2枚むいてから水洗いし、水気を完全に拭き取る。熱湯で30秒ほどさっと茹でて(または熱湯をかけて)水気を切る。この工程で殺菌と余分なくさみが抜ける。
甘酢は酢・砂糖・塩を鍋に入れて煮立て、砂糖と塩を溶かしてから冷ます。消毒した瓶にらっきょうと赤唐辛子を入れ、冷めた甘酢を注いで蓋をする。冷暗所か冷蔵庫で保存し、2週間後から食べられる。1ヶ月以上漬けると角が取れてまろやかになる。
塩漬けの作り方——シンプルに素材の味を楽しむ
甘酢漬けよりさらにシンプルな塩漬けは、らっきょう本来の風味をいちばん素直に楽しめる漬け方だ。
材料(らっきょう1kgあたり):らっきょう1kg、粗塩100g(らっきょうの重さの10%)、保存瓶(2L程度)
下処理は甘酢漬けと同様。水気を拭いたらっきょうに塩をまぶして瓶に入れ、冷暗所で保存するだけだ。1週間ほどで食べられるようになる。塩漬けはそのまま食べるほか、塩抜きしてから甘酢に漬け直すという使い方もある。塩漬けを一度経由させることで、よりパリパリとした食感になるという声もある。
登山の帰りに買ったらっきょう
九州の山を下りてくると、道の駅や産直の店に必ず寄りたくなる。体が山で消耗しているせいか、帰り道の食べ物への執着が普段より少し強くなる。
ある夏、霧島を下りてきた帰り道に産直の店でらっきょうを見つけた。鹿児島産の土付きで、粒が大きくてふっくらしていた。値段も手頃で、気づいたら袋に手が伸びていた。
家に帰ってから、下処理をして甘酢に漬けた。疲れた体には少し面倒な作業だったが、らっきょうの匂いが台所に広がる中で瓶に詰めていると、不思議と気持ちが落ち着いた。山で消耗したものを、台所で少し取り戻しているような感覚があった。
2週間後に開けた瓶のらっきょうは、パリパリとよく漬かっていた。カレーと一緒に食べたが、市販のらっきょう漬けとは明らかに違う、土の記憶がかすかに残っているような味がした。霧島から連れて帰ったらっきょう、という気持ちで食べた。
らっきょうは、急がないと終わる
梅もそうだが、らっきょうは特に旬が短い。「来週でいいか」と思っていると、棚からなくなっている。
毎年、らっきょうの季節が終わる頃に「今年も買いそびれた」という声を聞く。その度に、今年は早めに案内できたらよかったと思う。
売り場に並んでいるうちに手に取ってみてほしい。下処理の手間を考えると、洗いらっきょうを買って甘酢漬けだけ作るのが最初の一歩としては一番現実的だ。らっきょう1kg、酢と砂糖と塩。それだけで、食卓に自分で漬けたらっきょうが並ぶ。
あなたは毎年らっきょうを漬けていますか?それとも今年が初めてですか?ぜひコメントで聞かせてください。

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