母の日は「子ども目線」で売れ|青果担当が教える、売り場が変わった日のこと

八百屋の話

ある母の日の午後、ひとりの女の子が売り場に来た。


小学校低学年くらいだろうか。うちの娘と同じくらいの年齢で、カーネーションの前でしばらくじっと立っていたあと、こちらを見上げてこう言った。
「……どれがいいですか」
お母さんにプレゼントしたい、ということだった。
なんだか、自分の娘を見ているような気がした。だから思わず言ってしまった。「じゃあこのカーネーション、安くするから。一緒にラッピングしてみる?」
女の子は少し考えてから、うん、と言った。
売り場の片隅で、ふたりでセロファンを切って、リボンを結んだ。不格好だったけど、できあがったとき彼女は満足そうな顔をしていた。
その日の帰り道、ふと気づいた。
自分はずっと「売ろう」としていた。でも必要だったのは「買いたくなる場所をつくること」だったんじゃないか、と。

母の日の主役は、実は子どもだ
母の日は、ちょっと構造が特殊なイベントです。
喜ばれるのはお母さん。でも、財布を開くのは子どもです。
大人は価格や品質を見て買います。でも子どもは違う。「ママが喜びそう」「かわいい」「自分にも買えそう」——その三つが揃えば、それだけで動きます。理屈じゃなく、感情で買う。
だとすれば、売り場に必要なのは「立派さ」より「入りやすさ」です。高級感より、親しみやすさ。そしてなにより、子どもが「自分にもできる」と思える仕掛け。

やったこと① 似顔絵と、メッセージカードを置いた


最初に手をつけたのは、売り場の「空気」を変えることでした。
子どもが描いたようなお母さんの似顔絵のイラストを、カーネーション売り場の周りにたくさん貼り付けた。それだけで、売り場の印象がガラッと変わりました。「プレゼントを買う場所」から「気持ちを届ける場所」へ。
さらに、「ありがとう」と書けるメッセージカードと、ペンを置いた。書けるスペースを少し確保した。
すると、子どもがそこで書き始める。それを見た通りがかりの大人が「なんだろう」と寄ってくる。気づけば売り場に人だかりができていた。
賑やかさは、いちばんの集客です。
私が試したこと似顔絵イラストは最初、手書きのものを数枚貼っただけでした。でも子どもの反応が予想以上によくて、気づいたら売り場の雰囲気が「手作り感のある場所」になっていた。完璧に作り込まなくていい。むしろ「ちょっとゆるい」くらいが子どもには刺さる気がします。

やったこと② 「子どものお小遣い」で買える値段を作った


子どもの予算は、だいたい300円から1,000円です。
ここを無視して「立派なギフト」だけ並べていると、子どもは買えない。買えないから、来なくなる。来なくなるから、売り場が静かになる。
だから意識したのは「500円前後で買えるものを、必ず1種類は置く」こと。
ミニカーネーション1本でも、小さなフルーツひとつでも、ラッピング込みで500円台に収まるものを作る。「子どもでも買える」という事実が、売り場の間口を広げます。
私が試したこと最初は「安く売るのは負け」みたいな感覚がどこかにありました。でも500円で売れたカーネーションが、その子の家でお母さんを笑顔にするなら、それはぜんぜん負けじゃない。値段じゃなくて、体験を売っているんだと思ってから、値付けの考え方が変わりました。じゃあ実際に売り上げは上がったの?上がってます。そして長い目で見てもプラスに働きます。断言できます。

やったこと③ 「体験」を売り場に持ち込んだ


最初の話に戻りますが、あの女の子が満足そうな顔をしたのは、カーネーションを買ったからじゃなかったと思います。
自分でラッピングしたから、です。
自分で選んで、自分で包んで、自分の手からお母さんに渡す。その一連のプロセスに意味があった。
売り場でできることは限られています。でも、ラッピングのセロファンとリボンを一セット用意して、「自分で包んでみる?」と声をかけるだけでいい。不格好でいい。むしろ不格好のほうが、ずっといい。
私が試したことラッピングコーナーを作ってから、子どもがひとりで来ても「どうしよう」と立ち止まらなくなりました。「包む」という行動があることで、迷いが消える。売り場に「次の行動」を置いておくことの大切さを、このとき初めて実感しました。

FAQ


Q. 花がなくてもできますか?
できます。むしろチャンスかもしれません。フルーツ一個、小さなお菓子、なんでも「気持ちを乗せられるもの」であれば母の日の商品になります。大事なのは、添えるひと言です。「このイチゴ、すごく甘いよ。ママびっくりするかも」——それだけで、ただの果物が贈り物に変わります。
Q. 子ども向けにすると、大人客が離れませんか?
むしろ逆でした。子どもが来ると、一緒についてきた大人が「ついで買い」をする。子どもの活気が、大人を引き寄せます。
Q. 売り場づくりで最初にやることは?
「子どもの目線の高さ」に商品を一種類置くことです。それだけで、売り場の見え方が変わります。

おわりに


「人は論理で動かない。感情で動く。論理はあとからついてくる」
——メイ・アンジェロウ
母の日は、感情で動く日です。
子どもが「ママに喜んでほしい」と思う気持ちを、売り場がちゃんと受け止められるかどうか。それだけの話だと思っています。
難しく考えなくていい。最初の一歩は、「子どもが買える1商品」を作ることです。

あなたの売り場には、子どもが迷わず手を伸ばせる商品、ありますか?

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